日本はコーヒー大国といわれるほど、多くの人が毎日コーヒーを飲んでいます。そんな慣れ親しんだ飲み物であるコーヒーの健康効果が、最近話題になっているのはご存知ですか?
コーヒーに含まれるカフェインは、肝臓がん、膵臓がん、子宮がんなど、さまざまながんの予防に効果があるというのです。そして、カフェインとガンの関係についての研究が相次いで報告されています。
カフェインはコーヒーの他、緑茶、紅茶、コーラ、チョコレートなど多くの飲食物に含まれているので、その効能をぜひとも知っておきたいですね。
そこで、近年の驚くべき研究報告を、病気の種別にご紹介したいと思います。
《骨肉腫、軟部腫瘍》カフェインを併用した抗がん治療に効果
カフェインの併用投与による抗がん剤治療法が、効いていない抗がん剤を効かせ、また効いている抗がん剤も、より効果を高めることが明らかになっています。
金沢大学付属病院の整形外科では、土屋助教授らの独自に開発したカフェインの併用療法を抗がん剤治療の術前にすることで、骨肉腫や軟部腫瘍の治療に効果をもたらしました。
カフェインは、がん細胞のDNA修復を阻害させ、がん細胞の増殖を抑えるので、抗がん剤と合わせると効果的だと考えられたのです。
骨肉腫の転移がない場合にとくに効果的で、抗がん剤の効果が従来の40%から84%に増加し、うち78%がその後の転移や再発がみられていません。一方転移がある場合は、効果が71%と若干さがっています。
軟部腫瘍の治療においても、転移がない場合、腫瘍の消失は約30%、縮小もあわせ効果は約70%で、5年生存率は従来の50%以下から81%までと大きく上昇しています。
カフェイン併用化学療法は、 厚生労働省から2003年に高度先進医療として認められましたが、臨床試験の倫理違反などが問題化しており、その先の展開が気になるところです。
《乳がん》1日5杯以上のコーヒーは乳がんのリスクを減らす
カフェイン療法は、整形外科のみならず、乳がんの発症低下にも効果があると判明しています。
1日2杯以上のコーヒー摂取した女性は、0−1杯を摂取した女性と比べて、乳がんのがん細胞を減少させ、再発リスクが49%低下したと、2015年4月にスウェーデンのルンド大学が発表しました。
乳がんを発症した1395人の女性のコーヒーと紅茶の摂取量の関係を追跡した調査によると、1日にコーヒーを3−4杯飲む女性は、1−2杯飲む女性にくらべ、乳がんリスクが13%低下、さらに5杯以上の摂取では24%低下するという統計結果がでました。
一方で、紅茶を1日1杯以上摂取する女性は、飲まない女性と比べ、乳がんのリスクが19%増加したと相反する結果がでています。
カフェインが乳がんのリスクを低下させるという結果は、更年期の前と後の両方に効果的だと確認されています。
しかし、女性ホルモンの受容体の有無により、カフェインの効果に違いがみられます。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の女性ホルモンの受容体を持たない人は、抗がん剤が効きにくいと考えられています。
《子宮体がん》1日1−2杯のコーヒーで子宮体がんのリスクを低下
カフェインは子宮体がん(子宮内膜がん)についても効果を表すことが考えられています。
JPHC study( 厚生労働省研究班による多目的コホート研究)の追跡調査では、1日1−2杯のコーヒー摂取で子宮体がんの発症リスクが39%低下、3杯以上の摂取では62%低下したと述べています。
カフェインは女性ホルモンのエストロゲンの分泌を刺激します。またカフェインは交感神経を刺激し、アドレナリン分泌を上昇させることにより、インスリン作用を抑制するといわれています。
こうしたカフェインがエストロゲンやインスリンに与える影響によって、子宮体がんの発症のリスクを下げるのではないかと考えられています。
《大腸がん 》1日のコーヒー4杯以上で再発や死亡リスクが52%低下
2015年8月にアメリカのチャールズ・S・フックス医師らが行った、ステージ3の大腸がん患者953人を対象に行われた追跡調査では、1日に4杯以上のコーヒーを飲んでいた患者は、まったく飲んでいない患者と比べて、大腸がんの再発や死亡リスクが52%低下したと、オンライン誌 Journal of Clinical Oncologyが発表しています。
効果がみられたのは、コーヒー1日2杯以上からで、ハーブティーやディカフェの飲料、また1杯のコーヒーでは変化はみられませんでした。
ただし、今回の調査ではコーヒーと大腸がんの関連性が認められたものの、その因果関係までは明らかになっていません。
《肝臓がん》コーヒーの炎症緩和作用が肝炎の進行を抑制する可能性
肝臓がんに対しても、1日コーヒー2杯以上の摂取は、肝臓がんの発症リスクが43%に低下することが、2007年スウェーデンのカロリンスカ研究所が報告しています。
2005年の厚生労働省の研究班の研究でも、1日5杯以上のコーヒーを飲む人は、コーヒーを飲まない人に比べ、肝臓がんの発症率は4分の1に低いことがわかっています。
肝臓がんの最大の危険要因といわれるのは、C型肝炎やB型肝炎などの肝炎ウィルスです。
コーヒーが肝臓がんに効くのは、コーヒーの炎症緩和作用が、C型肝炎の進行を抑制して、肝臓がんへの進行をくい止めるのではないかと考えられています。
この作用は、カフェインではなくコーヒーやお茶に含まれる、抗酸化物質が関わっているのではないかという見解もあります。コーヒーにはクロロゲン酸、お茶にはカテキンというポリフェノールの一種が含まれていて、これらは体内の活性酸素を抑制する作用があるのです。
《膵臓がん、膀胱がん》コーヒーの摂取がリスクを及ぼすがんもある
数々のがん予防の効果が明らかになっているカフェインですが、一方でリスクをもたらすというがんの存在もあります。
膵臓がん
カフェイン摂取が膵臓がんの発症に影響していると、2008年厚生省が警告しています。
1日4杯以上のコーヒー摂取は、膵臓がんの死亡リスクが増加するという調査がでています。これは膵臓がんそのものではなく、胆石や血中のコレステロール濃度の上昇によるものが関係している可能性があります。
膀胱がん
膀胱がんについても、コーヒーを1日1杯以上摂取する男性は、コーヒーを飲まない人にくらべ、膀胱がんの発症率が50%高いと、国立がん研究センターの調査でわかりました。さらに、禁煙者でコーヒー摂取者は約2倍のがん発症率となっています。
このことから、禁煙者でコーヒー摂取量が高いほど、膀胱がんのリスクが高くなるといえますが、喫煙者は禁煙者に比べカフェインの効果が得られにくいことから、たばこの摂取による違いがでているとのではないかと考えられています。
しかし膀胱がん予防にもっとも大切なのは、禁煙であると実験者は示唆しています。喫煙は膀胱がんの大きな要因で、喫煙者の膀胱がん発症率は禁煙者に比べ4倍になるのです。
カフェインのがん予防のまとめ
例に挙げた、骨肉腫、軟部腫瘍、乳がん、子宮体がん、 大腸がん、肝臓がんにもたらすカフェインの影響はいかがでしたでしょうか。
このように、カフェインは、さまざまながんの発症、死亡、再発のリスク低下をもたらすという数々の調査が発表されてるのです。治療薬そのものになるというわけではありませんが、カフェインの摂取が、がん予防におおきな効果をしめしているということは明らかです。
いまだ成分やメカニズムなど明らかにされていない部分もありますが、今後のさらなる研究が期待されます。
とはいえ、カフェイン摂取の習慣がない人は、健康効果を目的にあえてカフェインを取る必要はないでしょう。
毎日飲んでいる人は、コーヒー3−4杯や、お茶4−5杯の適量範囲であれば、心置きなく引き続きカフェインでの休憩を楽しんでよいと確認されたのです。